2015年 第62回日本生態学会大会(鹿児島) 植物生理生態自由集会 懇親会のおしらせ 

自由集会の終了後、懇親会を予定しています。

今回は、シンポジウム S06:Plant ecophysiology in interdisciplinary science: Current and future perspectives (3月19日 9:00-12:00 J会場)http://www.esj.ne.jp/meeting//abst/62/S06.html
との合同懇親会を企画しております。

日時:集会終了後(20:30〜)
場所:居酒屋 「きく屋」 (鹿児島大学から電車で10分+徒歩3分)
http://www.hotpepper.jp/strJ000033616/?vos=dhppmmgmz10111105
予算:郷土料理コース4000円(飲放題付き)

両集会において、参加人数の確認をさせていただきますので、ご協力よろしくお願いします。

2015年 第62回日本生態学会大会(鹿児島) 植物生理生態自由集会のおしらせ

日時:3月19日(木)18:00−20:00

会場:鹿児島大学 郡元キャンパス(E会場)


[XW-012] 植物生理生態:植物と菌根菌の深い繋がり

企画者: 小笠真由美(東大院・新領域),鎌倉真依(京大・農),杉浦大輔(東大院・理),吉村謙一(森林総研関西)


多くの植物は、根の組織内に侵入した菌類と共生関係を築いており、この共生体を菌根、また共生している菌類を菌根菌とよぶ。菌根菌は植物から光合成産物を供給されて生きており、一方で菌根菌は土壌中に発達させた菌糸を介して窒素やリンなどの土壌栄養塩を吸収し、これらを植物に提供している。特に貧栄養な土壌条件では、植物の生育にとって菌根菌との共生が果たす役割は大きい。従って、植物の生理生態学的機能を考える上でも植物―菌根菌共生は重要な意味を持つが、これまでに生理生態学的視点からその役割や機能に着目した研究事例はあまり多くない。

そこで本集会では、菌根に精通した講演者に、植物と菌根菌の間での栄養塩の輸送プロセスについて、また、菌根菌との共生が植物の生存に及ぼす役割や植物と菌根菌群集の関係についての最新の研究事例を紹介していただく。本集会を通じて、植物の生育・生長において菌根菌が果たす役割について理解を深めると同時に、分野を横断した新たな生理生態学研究の展開についても考えていきたい。

コメンテーター:奈良一秀(東大院・新領域)


趣旨説明―植物生理生態学における菌根菌の重要性
  吉村謙一(森林総研関西)

アーバスキュラー菌根共生におけるリン酸吸収および輸送の分子機構
  菊池裕介(北大院・農)

菌根菌と植物の相互作用が実生更新に与える影響について
  谷口武士(鳥大・乾地研)

外生菌根菌群集に対する宿主樹木と気候の影響
  宮本裕美子(東大院・新領域)



=====発表要旨=====


菊池裕介(北大院・農)「アーバスキュラー菌根共生におけるリン酸吸収および輸送の分子機構 」
 アーバスキュラー菌根菌 (AM菌) 様の微生物と植物の共生が4億年前のデボン紀にはすでに始まっていた証拠が原始的な植物の化石から見つかっている。それはちょうど海から陸に植物が進出し始めた時期に相当し、貧弱な根しか持たなかった原始の陸上植物は、AM菌を利用して養水分を獲得することで乾燥した環境に適応していたと考えられている。
植物がAM共生を行う最大の利点は、菌を介したリン酸吸収の促進にある。リン酸はカルシウム・鉄・アルミニウムなどと難溶性の塩を形成するため土壌中での拡散速度が極めて遅く、その吸収を効率化するためには土壌と接する表面積の拡大が最も有効である。AM菌が土壌中に展開させる菌糸 (外生菌糸) は根毛よりも細く長いため、炭素投資当たりの吸収表面積をより大きくすることができる。また外生菌糸のリン酸吸収能は極めて高く、リン酸の添加後わずか数時間の間に全リンの60–70 %にも達する量をその重合体であるポリリン酸として液胞内に集積することができる。このシステムにより、リン酸が多量に吸収されても細胞質のリン酸レベルは一定に保たれ、土壌からの吸収効率が低下することを防いでいる。また菌糸内には管状の液胞が菌糸長軸方向に沿って伸びており、ポリリン酸はこの管状液胞ネットワーク内を移動し、根内 (内生) 菌糸において再び無機リン酸まで分解されて植物に供給されていると考えられている。

1. ポリリン酸集積時のトランスクリプトーム応答によって引き起こされるリン酸と無機カチオンの半同調的・等量的吸収
演者らは、外生菌糸へのポリリン酸集積と半同調的・等量的に無機カチオン (ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウム) が取り込まれることを見出した。またこの時、リン酸輸送、無機カチオン輸送、およびポリリン酸生合成に関与する遺伝子群の発現が上昇していることもわかった。これらの結果から、AM菌が土壌からリン酸を吸収する際には、リン酸輸送・代謝経路に加えて無機カチオンの輸送経路を活性化させることで、ポリリン酸集積に伴って細胞内に多量に蓄積する負電荷を中和していることが示唆された。

2. 宿主の蒸散およびAM菌水輸送体により駆動される菌糸内長距離リン酸輸送
 これまでAM菌の菌糸内リン酸輸送は、ポリリン酸が管状液胞ネットワーク内を単純拡散によって移動するという方向性を持たないメカニズムによってなされていると考えられてきた。一方で演者らは、蒸散により生じる根細胞と菌糸の間の水ポテンシャル差が菌糸内に水流を生み出すことで、菌糸末端から宿主へ”方向性を持った”ポリリン酸輸送が行われるとの仮説を立てた。実際に、宿主の蒸散抑制や内生菌糸で発現している水輸送体遺伝子 (アクアポリン) AQP3のノックダウンがポリリン酸移動速度を低下させることが示され、本研究の仮説が強く支持された。



谷口武士(鳥大・乾地研)「 菌根菌と植物の相互作用が実生更新に与える影響について 」

外生菌根菌と植物の共生関係は陸上生態系で普遍的に観察される共生の1つである。外生菌根共生による利点として、宿主植物の養水分吸収の促進、病害抵抗性の向上、乾燥や塩ストレス耐性の向上などが報告されている。これらの菌根菌の機能は宿主植物の環境への適応性に関与しているため、宿主植物が実生であれば、その定着や更新に大きく影響してくる。また、実生の定着においては、近隣の外生菌根性植物から実生への菌根菌の感染、および菌根菌を介して植物個体間の根が連結された菌糸ネットワークの影響も報告されている。加えて、菌根菌の存在によって樹種間競争が緩和されるという報告もあり、菌根菌は植物群集の動態にも深く関与していると考えられている。また、上記に加えて、実生の定着や植物群集の動態に菌根菌が影響を与える要因として、共生する菌根菌の種類が挙げられる。外生菌根を形成する菌種は非常に多様であり、現在、20,000〜25,000種の菌が存在すると見積もられている。これらの菌種は様々な生理生態的特性を持っており、共生する菌種によって菌根菌の機能も大きく異なると考えられる。演者が行った調査では、実生苗の成長促進、養分吸収、病害抵抗性において、それぞれの菌根菌種がプラスに働く項目とその程度は菌種間で異なっていた。従って、環境への植物の適応性は、どのような環境でどの菌根菌種が共生するのかによっても左右されていると考えられる。菌根菌の重要性が初めて強く認識されたのは、菌根菌が存在しないような場所において菌根菌の有無が宿主植物の定着に与える影響が非常に大きかったことを発端としているが、森林のように多様な菌根菌種が存在する場所では、どのような菌種が共生するのかも非常に大切であり、菌種に着目した研究が今後一層、重要になるであろうと考えられる。



宮本裕美子(東大院・新領域)「外生菌根菌群集に対する宿主樹木と気候の影響」

日本の自然林に広く優占するマツ科、ブナ科、カバノキ科などの樹木は外生菌根菌(以下菌根菌)との共生関係なしでは生存できない。森林内では樹木1種に対し多くの菌根菌種が生息することが知られている。例えば宿主樹木8種ほどの冷温帯林には200〜300種の菌種が生息していると推定されている(Ishida et al. 2007)。菌根菌の多くは宿主特異性を示さず多様な宿主に共生する(ジェネラリスト)と考えられている(Bruns et al. 2002)。一方、特定の樹木にのみ共生する菌種(スペシャリスト)も知られており、ハンノキ属のAlpova菌やマツ属のショウロ属菌(Rhizopogon)が代表的な例である。また、ジェネラリストの菌種でも特定の宿主に「嗜好性」を示す場合が考えられ、ブナ科とマツ科のように系統的に異なる宿主樹木の間では形成される菌根菌の組成(群集)が異なる可能性が指摘されている(Ishida et al. 2007)。これまでの菌根菌群集は、環境が一定な林分内で多く調査されてきたが、近年の急激な環境変化に対する生物の応答を予測する上で、より広域での知見が重要となっている。本研究では宿主樹木によって菌根菌群集がどのように異なるのか、環境が一定な林分内と、気候の異なる林分間で調べた。

標高にそって暖温帯常緑樹林、冷温帯針広混交林、亜高山帯針葉樹林を含む計7つの林分で菌根菌群集を調査した。土壌中の樹木根を採取し、形成されている菌根菌を形態と分子解析によって特定した。また分子解析により菌根宿主を特定し、宿主樹木9属から約450菌種を記録した。結果、針広混交林内では宿主樹木によって菌群集が異なった。林分内では系統的に異なる樹木間で菌種の棲み分けが生じている可能性がある(Ishida et al. 2007, Smith et al. 2009)。一方、広域では菌群集は、宿主よりも気候によって強い影響を受けることが示された(Miyamoto et al. 2014, 2015)。また森林樹木組成と菌群集に相関が見られるものの、因果関係は確認されなかった。よって樹種と菌はそれぞれ個別に気候の影響を受けて同所的に存在している可能性がある。菌根菌群集が気候の影響を受けている可能性はグローバルな観点からも報告されており(Tedersoo et al. 2012, 2014)、気候変動により樹木と共生菌の関係や、菌を介した生態系内の物質循環が影響を受ける可能性が考えられる。

2014年 第61回日本生態学会大会(広島) 植物生理生態学自由集会 懇親会のお知らせ

自由集会の終了後、懇親会を予定しています。

大会懇親会(18:30〜)に参加予定の方も多いと思いますが、
それまでの時間、演者を囲んで軽く一杯やりましょう。

集会の始めに、参加人数の確認をします。

皆様、お誘いあわせの上、ふるってご参加ください。



日時:3月17日の集会終了後,16:50〜

場所:海鮮居酒屋やぶれかぶれ大手町店(大会懇親会会場すぐ近く)

   広島市中区大手町3-3-8

電話:082-249-9122

詳細:http://www.e-ino.jp/hiroshima/shop.asp?id=04390016

予算:3000円程度
 
 
  

2014年 第61回日本生態学会大会(広島)植物生理生態学 自由集会のおしらせ

日時:3月17日(月) 14:30-16:30

会場:広島国際会議場(H会場)


[XW-009] 樹木のかたち作りを生理生態学的視点から考える

企画者:吉村謙一(森林総研関西)、鎌倉真依(京大・農)、小笠真由美(東大院・新領域)、杉浦大輔(東大院・理)


植物のかたち作りの基本は、光環境や土壌水分・栄養条件に応じて光合成産物や窒素を葉・茎・根へ分配しながら成長していくことである。樹木においては、枝を最小単位として構成される樹形が、自己被陰の回避や他個体との競争を通じて光資源の獲得に大きく影響するため、樹木の成長と生残を決定する主要な要因となっている。一方で、枝間で光合成産物のやり取りは行われないという枝の自律性や、不均質な光環境ではより生産性の高い枝に窒素が集中的に分配されるといった現象が見られるなど、枝の生理生態学的特性もまた樹形形成に制限を与えている。

しかし、時空間的に変動する環境条件が枝の形成や樹形全体に与える影響や、その種間多様性については未解明の点が多い。光や水などの資源を利用する上で、樹木個体の生産力とかたち作りの間にはどのような相互作用があるのだろうか。また、日常的に自重や風雪によるストレスを受けている樹木は、力学的安全性と成長とのトレードオフを抱えながら、どのような規範の下に樹形形成を行っているのか。さらに、自立する樹木を拠り所にする木本性つる植物において、枝作りや樹形の種間多様性がそれぞれの種の生活史戦略にどう関わっているのか、という問題も興味深い。

本集会では、樹木個体スケールで上記の課題に取り組んでいる3名の若手研究者の研究を紹介する。これらの講演を通じて、樹木のかたち作りと生理学的機能との関係や規範、さらには種間多様性について理解を深めるとともに、生理生態学を起点に“樹木のかたち”について議論を行う。

コメンテーター:梅木清(千葉大・園芸)



=====発表要旨=====


かたち作りの基本となる物質分配:光とCNバランスをつなぐ植物ホルモンの役割
  杉浦大輔(東大院・理)

植物は、光合成で獲得された炭水化物(C)を葉、茎、根へ分配するという、物質分配によって形作られていく。各器官へ分配されたCは、各器官特有の生理的、物理的な役割を担う。例えば葉は新たに光合成によって新たにCを獲得し、根は無機栄養、特に窒素(N)や水を吸収し、茎は葉を支えると同時に根で吸収された物質の通り道となる。このような各器官への物質分配パターンは、光環境や土壌N条件に応じて大きく変化し、植物の成長速度を決定する大きな要因となる。これまでの多くの研究から、個体レベルの物質分配、例えば葉と根のバランスは、土壌のN可用性と、光環境で決まる葉のNの需要に応じて、相対成長速度(RGR)を最大化するように調節されていることが示されてきた。これらのことから、植物体は、根でどれだけNを吸収したか、葉でどれだけNを必要とし、どれだけ光合成をしているか、そして現状の葉と根のバランスはどうなっているのか、を認識し、物質分配を調節していると考えられる。N条件に関しては植物ホルモンの一つであるサイトカイニン(CKs)が関与していることは知られているが、その他どのようなシグナル物質が関与し、どのような仕組みで物質分配が調節されているかについては不明な点が多い。

発表者らは、植物ホルモンが物質分配を調節するシグナルであると仮説を立て、外生植物ホルモンの添加による形態変化の解析と、光環境・N条件に応じた形態変化と内生植物ホルモンの定量解析から、これらの問題に取り組んできた。植物ホルモンとしては、CKsに加え、光に応じた形態形成に関与するジベレリン(GAs)やその生合成阻害剤に着目した。

これらの実験結果から、(1) 外生GAsやCKsなどによる形態変化は個体レベルのN吸収量と、葉の生理的形質の変化を通じてRGRを変化させること、(2) 光環境やN条件の変化に応じて高レベルの内生GAsやCKsを示した個体の形態は、外生GAsやCKsを与えたときの形態と類似していること、が分かった。また、(3) 葉や茎頂における内生のGAs量は、葉の損失や土壌N条件の変化に応じて増減し、葉と根の光合成産物分配比を良い相関を示した。これらの結果から、植物ホルモンが物質分配を調節するメカニズムについて、CNバランスと植物ホルモンに注目して議論する。




光合成・水分利用からみた光環境と樹形構造
  吉村謙一(森林総研関西)

森林に生育する樹木は毎年シュートを伸長させ、そのシュート生産が積み重なることによって樹形構造を形成する。光環境はシュート伸長に影響を及ぼすため、樹形構造は光環境によって大きく異なることが知られている。一方で、水分環境もシュート伸長や樹形構造に影響を与えると考えられており、光および水分は樹形構造を形成する上で重要な制御要因となっている。森林の林冠部は充分な太陽光が照射されるが、蒸散効率が高いため水分ストレス下におかれやすい。一方で林床面は暗い環境にあるため、光ストレス下におかれやすい。樹木は充分な光合成生産をおこない、かつ水分欠乏を抑制しながら生育する必要があり、それぞれのおかれた環境条件に適応した樹形構造をもつと考えられる。そこで、生活史の中でおかれる環境が異なると考えられる低木樹種と高木樹種においてそれぞれどのように樹形構造が形成され、またそれらが水分利用や光合成生産とどのように結びついているか調べた。

その結果として、低木樹種・高木樹種に関わらず生育初期の樹高生長期には主軸は側枝に比べると高い生長を示し、樹高がある程度高くなると主軸と側枝に生長差はみられなくなっていることがわかった。通水性と樹形構造の面からみると、低木樹種は道管径が小さく通水性が低い枝の枯死率が高く、通水性の高い枝が残っていくという樹冠発達パターンを示し、高木樹種では通水性の高い枝において分枝率が高くなるといった樹冠発達パターンを示した。また、低木樹種では通水性の低い枝によって自己被陰が小さくなるような葉群配置がみられ、高木樹種では通水性が低く、分枝率が低い枝の方が葉面積は大きかった。低木樹種や高木樹種に限らず、通水性のよい枝と劣る枝を「使い分け」ていることが示唆され、樹形構造の骨格を通水性のよい枝で形成し、通水性の劣るシュートによって光合成生産にとって重要となる葉群配置を規定していた。




樹木にかかる力学ストレスの実測による樹形形成規範の探索
  南野亮子(東大院・日光植物園)

樹木は常に荷重によるストレスにさらされている。現実の樹木はそれまで経験した荷重に従い高さ成長と肥大成長のバランスを調節していると考えられており、実際に周囲の環境によって樹木の高さあたりの基部直径が変化することが知られている(King 1981)。樹形の力学的制約には2つの仮説がある。一つは、枝あるいは幹に課せられる力によって枝(幹)内に生じる力(応力)が一様になるように樹形が作られるというuniform stress仮説、もう一つは、荷重によって枝あるいは幹に変形が生じたときに変形後の形がサイズによらず一つに決まるというelastic similarity仮説である(McMahon and Kronauer 1976)。これらの仮説はアロメトリー式に還元された形で検証されてきたが、木にかかる力の実測による検証を行った研究は少ない。近年では、技術の発達により生きた木にかかる力を直接的に測定することが可能になってきた。本講演では、木の幹あるいは枝に実際に課せられる荷重の測定により力学仮説を検証した結果を紹介する。

(1)カラマツ孤立木にかかる風による応力
樹木の幹は風荷重の影響を強く受け、強風による倒木がしばしばみられる。そのため、幹の力学的制約を考えるときにはしばしば風により内部に発生する力に焦点があてられる。幹の形は風力に対して一様応力であるかどうかが議論されてきたが、いまだ決着はついていない。本研究ではカラマツ孤立木幹に関して、複数の高さにおいて風により幹に生じる応力の長期計測を一年間行い、幹に沿って現れる応力が一様であるかどうかを確かめた。年間を通じて観測された風速の範囲において、葉の有無に関わらず幹の先端に近いところほど風による応力が大きいことが分かった。

(2)水平枝の形態と重力との関係
水平枝は幹とは異なり、風等の外的な力に加え自重による曲げの力を常に受ける。この力が枝の形態形成に対してどれだけの影響を与えるかは枝の環境により変わりうるが、自重による制約が幹と異なる形で枝の形態形成にかかわることは容易に想像される。本研究では、ブナとウラジロモミの水平枝について、自重及び風などの動的荷重により生じる曲げ応力を測定した。この環境においては、枝が年間に経験した風あるいは雪による応力は自重により生じる応力を超えるほど大きいものではなかった。自重が枝の各部位に与える応力及び安全率(=破壊に必要な応力/作用する応力)は枝内での位置によらず一定の範囲に収まっており(ブナの細枝を除く)、自重が力学的制約としてこれら2種の水平枝の形態形成に大きく寄与していることが示唆された。




木本性つる植物における枝作りと成長の特性、及びその多様性について
  市橋隆自(九大・演習林)

つる植物は自重支持を外部のものに依存する植物の総称である。多くの植物分類群において自立する生活形から独立に進化しており、その中には一年生の草本種から、長い時間をかけて成長する森林生の木本種まで多様な生活様式を含んでいる。本講演では木本性つる植物の「枝作り」を軸にした研究結果から、「自立しない」道に進んだ植物に生じる利点と制限の一端、またつる植物の種間に見られる多様な成長戦略について概説したい。

「自重支持の依存により、つる植物は短期的に大きな伸長成長が可能になったが、長期的には、自立できないことが成長を制限する要因になる」
冷温帯林の落葉つる植物9種を対象にしたアロメトリー解析の結果、つる植物は同じ地上部重の樹木に比べ、葉重と当年茎重(伸長成長への投資に近似)が数倍大きく、またより高い位置に到達していた。一方で、年輪数を基に野外での成長速度を比べると、高さ成長は樹木と同程度、地上部重は同齢の樹木よりも一桁小さかった。各個体の茎の骨組み総延長と、当年の総伸長量のバランスから、つる植物は林冠に達するまでの過程で、伸ばした茎の、長さにして最大80%近くを失っていることが示唆された。大規模な茎喪失は、支持物探索の失敗や、ホストの枯死に伴って生じたと考えられた。

「アグレッシブな種と片利共生的な種の戦略的分化」
同所的に生育するつる植物4種の中で、主に林縁やギャップで更新する種(サルナシ、ツルウメモドキ)と林内で更新する種(マツブサ、イワガラミ)の分化が認められた。林冠の大型個体において、前者(特にサルナシ)は林冠の上に出て多くのホスト樹冠に広がり続けたが、後者は少数のホスト樹冠内部の陰に止まっていた。当年枝の構造を調べると、前者は探索枝(支持物獲得に特化したシュート:巻き付く、貼り付く)への投資が大きく、個々の探索枝が長い(ホスト獲得能力が高い)という特徴があり、後者は葉への投資が大きかった。また成長過程を通じた茎伸長量・そのうちの喪失した茎の割合共に前者の方が大きかった。このような枝の作り方は、両者の成長環境と成長戦略の違い(ホストの成長・枯死の動態が激しい環境で次々とホストを乗り移るか、光の乏しい環境で少数のホストとゆっくりと成長するか)を反映するものと考えられた。

 
 

2013年 第60回日本生態学会大会(静岡) 植物生理生態学自由集会 懇親会のお知らせ

自由集会の終了後、懇親会を予定しています。

集会の始めに、参加人数の確認を致します。
皆様、お誘いあわせの上、ふるってご参加ください。


日時:集会終了後,20:30〜
場所:さかな屋(JR静岡駅すぐ近く)
   静岡県静岡市葵区紺屋町1-6恊友ビル2F
電話:054-273-7412
詳細:http://www.hotpepper.jp/strJ000024776/food/
予算:5000円程度

2013年 第60回日本生態学会大会(静岡)植物生理生態学 自由集会のおしらせ

日程:2013年3月7日(木)18:00-20:00
会場:静岡県コンベンションアーツセンター(グランシップ静岡)


W35 植物の生理生態:水輸送を細胞、個体、群落レベルで考える

企画者:田副雄士(京大・生命科学)、宮崎祐子(岡大・環境)、野田響(筑波大・生命環境)、杉浦大輔(東大・理)、小笠真由美(東大・新領域)

日常的に水分ストレスにさらされている陸上植物にとって、水をいかに有効利用するかは個体の成長、生存戦略の鍵となっている。一方、植物個体内で葉へと輸送された水は、光合成に伴う蒸散を通じて、植物群落から大気へと輸送される。近年の地球規模の気候変動は、生態系の大規模な変化を引き起こすことが懸念されており、陸上生態系においてバイオマスの大部分を占める樹木の水輸送特性についての研究は、今後、将来的な森林の動態、さらには森林の機能変化を予測する上で非常に重要である。
多量の水分を必要とする樹木において、着葉期間における根から葉までの水の長距離輸送は、蒸散による葉からの失水を駆動力として大気圧を下回る陰圧下で行われていることから、常に道管内で水切れ(キャビテーション)の危険にさらされている。これまで、キャビテーションによって低下した通水機能は短期的には回復しないとされてきたが、近年、通水機能が短時間で回復することが報告されており、樹木の水輸送に対して新たな議論が展開されている。さらに、木部の水輸送機能は、葉への水分供給効率を決定することから、光合成や葉の水分生理、さらには成長速度や材密度といった成長特性との関連性についての研究も進んでいる。
本集会では、樹木の水輸送に関する最新の知見について統合的に理解するために、細胞(道管)、個体、さらには群落レベルまで、様々なスケールで研究を行っている若手から研究紹介を行う。これらの講演を通じて、陸上植物と水との関係について理解を深めるとともに、水輸送の面から植物のパフォーマンスについて議論を行う。


***発表要旨***

道管という死細胞がどのようにして水輸送能力を維持しているのか?−エンボリズムとその回復−

○大條弘貴,種子田春彦,寺島一郎(東京大・理)

水ストレス下にある植物の茎では高い陰圧が道管液にかかる.この高い陰圧によって木部にある気体が道管表面にある壁孔を通して道管内腔へ引き込まれると,気体が道管内腔に広がって水の輸送を妨げてしまう.この現象をエンボリズムと呼ぶ.エンボリズムを起こした道管が水輸送能力を回復するには,道管内腔を陽圧に保って内部にある気体を周囲の水に溶かしこみ,道管内を水で再充填する必要がある(Tyree and Yang, 1992).一方で,内腔の水に陰圧がかかっている機能している道管と内腔の水に陽圧がかかっている再充填中の道管とが隣接して共存する状況でも,エンボリズムを起こした道管へ水が再充填される現象が多くの植物種で報告されている.こうした状況では,一見すると,再充填中の道管内の水が周囲の陰圧下にある道管へ引き込まれてしまい,結果として再充填は決して完成しないように思える.
この問題を解決するために,これまでに2つの仮説が提案されている.ひとつの仮説は,再充填中の道管の壁孔内に気泡が入り込んだ構造(pit valve構造)がつくられることを仮定している.壁孔内の気泡によって,再充填中の道管の内腔にある水は周囲の道管にある水から隔離される.また,壁孔内の気泡と道管内腔の水との境界面では,壁孔の細胞壁が弱い親水性を示すために道管内腔にかかる陽圧とは反対の方向に表面張力による力が働く.このために,これらの力が釣り合っている限りにおいてpit valve構造は安定して存在し,再充填中の道管では陽圧を維持することができるとしている(pit valve説, Holbrook & Zwieniecki 1999).もうひとつの仮説は,道管間の壁孔内にある薄い細胞壁の膜(壁孔膜)を通れないような高分子量の糖を,道管周囲の柔細胞が能動的に道管内腔へ輸送することを仮定している.このとき,高分子の糖に対して壁孔膜は半透性を示す.このことで,再充填中の道管にある水は高い浸透濃度を保つことができ,さらには周囲の道管の水をむしろ引き込むことができるとしている(半透膜説,Hacke and Sperry 2003).
本講演では,陰圧下における茎の通水機能の回復に関する研究の現状を紹介するともに,これら2つの仮説の検証を試みた我々の研究の成果を報告する.



温帯性広葉樹における水輸送機能の維持特性:キャビテーション抵抗性と木部の回復性

○小笠真由美(東京大・新領域),三木直子(岡山大・環境生命),福田健二(東京大・新領域)

乾燥ストレスに伴う木部道管の空洞化(キャビテーション)に対する抵抗性は種によって様々であり,キャビテーション抵抗性の低い(キャビテーションに対して脆弱な)種ほど木部で通水阻害が起こりやすい.では,変動する水分条件下で生育する樹木にとって,キャビテーション抵抗性の低さはどう補償されているのか?近年,道管の再充填により木部の通水機能が回復するとの報告が増えつつある.本研究では,樹木の水輸送機能の維持特性を明らかにするため,キャビテーション抵抗性と木部の通水機能の回復性を調べた.また,様々な機能的および構造的特性(ガス交換速度や木部構造など)を調べ,水輸送機能との関連性を検討した.
その結果,キャビテーション抵抗性と同様に木部の通水機能の回復性も種によって異なること,キャビテーション抵抗性の低い種ほど木部の通水機能の回復性が高いことが明らかとなった.このことは,樹木が変動する水分条件下でも木部の水輸送機能を維持するしくみを持っていることを示唆する.また,キャビテーション抵抗性と木部の回復性は材密度とそれぞれ正と負の相関があった.材密度が低い種ほどキャビテーション抵抗性は低いが木部の回復性が高かったことから,材密度が,力学的強度との関連からキャビテーション抵抗性を決定する(Hacke et al. 2001)だけでなく,木部の貯水性(道管の再充填の際の水路もしくは水源となる?)との関連から通水機能の回復の程度を決定する可能性が示唆された.材密度は,成長速度(Chave et al. 2009)やガス交換速度(Santiago et al. 2004)などとも関連することから,樹木の水輸送機能の維持特性は,材密度を要として種の成長特性や機能的特性と相互に関連しているだろう.



高木の樹冠における水ストレスと葉の水分生理特性:樹高100mのセコイアメスギにみられる調節メカニズム
○東若菜,石井弘明(神戸大・農),Stephen C. Sillett(Humboldt State Univ.)

高木の樹冠上部の水ストレスは,現在,樹木の樹高成長を規定するもっとも有力な制限要因であると考えられている(Ryan et al. 2006; Meinzer et al. 2010).樹高60mを超える北米の針葉樹では,樹高の増加にともなう水輸送距離の延長や重力勾配で増加する静水圧が,葉の形態特性を規定すると考えられており,樹冠上部の葉は小型化して葉面積当たりの光合成速度が低下するなど,樹冠上部の生理機能が水ストレスにより抑制されることが示唆されている(Woodruff et al. 2004; Ishii et al. 2008).しかし,超高木の樹冠の水ストレスを実測した研究は極めて少ない.そこで,樹高世界一のセコイアメスギを対象に,水ストレスと葉の水分生理特性の因果関係を明らかにするため,北米カリフォルニア州において,樹高100m以上の樹冠部から葉を直接採取し,測定をおこなった.
研究結果から,セコイアメスギの葉がうける水ストレスの程度は,これまでの理論的予測に反して樹冠内の高さによらず一定であることが明らかとなった.また,同種の分布北限および南限でこの傾向に変異はなかった.これらのことから,同種の普遍的な生理特性として,樹冠上部には物理的に増加する水ストレスを補償する何らかの調節メカニズムが働いていることが示唆された.そこで,樹木の貯水機能に着目して測定をおこなった結果,樹冠下部から上部にかけて葉の貯水能力および多肉度が上昇することが明らかとなり,また,貯水に関与すると考えられる葉内の組織や細胞が観察された.葉における貯水は主幹や枝に比べて貯水量が少ないことから,個体全体の水利用においてこれまであまり重要視されてこなかったが,葉の貯水により短時間で仮道管が再充填されることは,蒸散などの急激な水分損失が生じやすい葉において水ストレスの回避に寄与していることが考えられる.
本集会では,樹木の樹高成長に関わる水輸送について,水ストレスによる生理機能の制限という従来の知見に加えて,樹木による“適応”という観点を取り入れ,そのメカニズムについて議論したい.



気孔開閉と森林のガス交換特性
○高梨聡(森林総研

地球の二酸化炭素濃度を軽減する対策の一つとして,森林の二酸化炭素吸収能力を最大限引き出すことが期待されている.植物は二酸化炭素を気孔から取り込み,光合成することによって自らを生長させている一方で,気孔から二酸化炭素を取り込む際に,葉内の水が蒸発する(蒸散作用).蒸散作用によって,水分が失われるため,気孔の開度を調節することによって,植物は二酸化炭素を取り込みつつ,水分が失われないようにしているため,二酸化炭素吸収機能は水分条件と密接にリンクしている.また,蒸散作用は,潜熱としてエネルギーを放出することによって,葉温を下げる作用や,太陽からの放射エネルギーから周辺の気温を上げる顕熱を減らすという作用を持ち,気候変動に対しても影響を与えている.
小型安定的な赤外線ガスアナライザーの登場により,即時的に二酸化炭素や水蒸気濃度が測定できるようになり,個葉レベルでは携帯型の光合成・蒸散測定装置が開発され,野外において様々な研究が行われている.同様に,渦相関法の登場により,直接的に群落レベルでの光合成・蒸発散量を測定できるようになってきている.渦相関法では30分単位という時間解像度で,自然条件下において群落レベルでの光合成・蒸散量を連続的に測定できるようになり,森林ガス交換特性の環境応答特性などの解析が可能になってきている.
渦相関法では群落内部のプロセスについては測定することはできない.一方で,個葉レベルでの測定では,自然条件下での長期連続的な測定は不可能に近い.したがって,渦相関法での観測と個葉レベルでの測定を相互に比較し合うことにより,より真実に近い森林生態系における水・炭素循環過程に迫れると考えられる.我々のグループが熱帯雨林において行った個葉レベルの測定からは,不均一な気孔閉鎖に伴う光合成の日中低下が起こっていること,ガス交換特性に鉛直分布が存在することなどが明らかとなっている.また同時に行なっている渦相関法による長期連続観測結果から,少雨期でも安定的な蒸発散が行われていること,少雨期には総一次生産量(GPP) が若干減少するとともに,生態系呼吸量も減少し,純生態系生産量(NEP)が安定的になっていることなどが示唆されている.森林生態系では多層構造を持つため,単純な積み上げによる比較は難しいが,群落レベルで観測されること,個葉で観測されることの類似性と違いについて,多層構造を考慮したモデルを用いて検討した結果を発表する.

2012年 第59回日本生態学会大会 生理生態自由集会 懇親会のおしらせ

終了後に懇親会を行います。
みなさまのご参加をお待ちしております!


場所:ぎゃれ楽坐(JR東海道本線瀬田駅 徒歩3分)
   〒520-2144 滋賀県大津市大萱1-17-20 松田ビル1F
時間:17:30-20:00(飲み放題2時間)
予算:\4000
電話:050-5798-1569
詳細:http://r.gnavi.co.jp/k400100/